歯科医院のファクタリングとは?仕組みやメリットについて解説

診療報酬ファクタリングは比較的新しい金融サービスです。医科分野ではすでに活用が進んでいますが、歯科業界ではまだ認知度が低いのが現状です。多くの歯科医院は銀行融資やリースを利用する傾向がありますが、個人経営が主流の歯科医院にとって、高額な医療設備への投資負担は避けられません。
こうした背景から、診療報酬ファクタリングは新たな資金調達の選択肢として、これから歯科医院での活用が大きく期待されています。この記事では、歯科医院の資金繰りを改善する手段として注目されている「診療報酬ファクタリング」について詳しく解説します。
歯科医院向け診療報酬ファクタリングの基本
診療報酬ファクタリングは歯科医院にとって心強い資金調達の味方です。一般的なファクタリングとは少し異なる特徴を持っているため、まずは基本的な仕組みを理解しましょう。
診療報酬ファクタリングとは何か
まず、ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権を買取会社に売却して早期に現金化するサービスです。金融庁では「事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス」と定義されています。
診療報酬ファクタリングは、このファクタリングの一種で、歯科医院が保有する診療報酬債権を対象としています。通常、歯科診療の報酬は患者さんが支払う自己負担分(3割)と保険負担分(7割)に分かれますが、保険負担分は約2か月後に支払われます。診療報酬ファクタリングを利用すると、この保険負担分を約2か月待たずに現金化できるメリットがあります。
歯科医院の診療報酬債権が持つ特徴
歯科医院の診療報酬債権の最大の特徴は「債務者(支払い元)の信用力の高さ」です。債務者は社保・国保といった公的機関であり、支払い能力は極めて安定しています。保険制度が破綻しない限り、回収不能リスクはほぼゼロといえます。
このため、ファクタリング会社にとって「買取りやすい」優良債権となっています。つまり、ファクタリング会社から資金調達を受けやすく、審査も通りやすいということです。一般的な企業の売掛債権と比べて、審査基準が緩やかになり、短期間での資金化が実現しやすくなります。
また、診療報酬債権は定期的かつ継続的に発生する点も特徴です。さらに、支払いサイクルが法律で定められており、支払日が確定している点もファクタリングの対象として適しています。こうした特性から、他業種の債権と比較して低い手数料率での買取りが実現しやすい債権といえるでしょう。
一般的なファクタリングとの違い
診療報酬ファクタリングは、原則として3社間ファクタリングとなります。つまり、歯科医院、ファクタリング会社、社保・国保の3社間で行われます。これは診療報酬債権の特殊性によるもので、社保・国保に対して債権譲渡の通知を行う必要があるためです。
手数料率も一般的なファクタリングと比べて低い傾向にあります。一般的な2社間ファクタリングの手数料率が10~30%程度なのに対し、診療報酬ファクタリングの手数料率は1~5%程度、場合によっては1%以下になることもあります。
診療報酬ファクタリングの法的根拠
診療報酬ファクタリングは、法的に完全に認められた資金調達方法です。法的根拠は民法第466条に定められている「債権譲渡」の規定です。この条文では「債権は、譲り渡すことができる」と明記されています。金融庁も「ファクタリングを装った違法・悪質行為」には注意を呼びかけていますが、適正に行われるファクタリング自体は合法的な資金調達方法として認めています。
歯科医院が抱える資金繰りの課題とは
歯科医院は他の業種にはない独自の資金繰りのため、課題を抱えがちです。診療報酬の入金サイクルや競争環境の変化によって、資金繰りの難しさは年々増しています。
診療報酬の入金サイクルが長い
歯科医院の資金繰りが難しい最大の理由は、診療報酬の入金サイクルの長さです。歯科診療の場合、患者さんから受け取るのは診療報酬の3割のみで、残りの7割は約2か月後に支払われます。
例えば、1月に行った診療の7割分は3月20日頃に入金されるため、その間は歯科医院が立て替えている状態となります。一般的な企業間取引の支払いサイクルが1か月程度であることを考えると、歯科医院の資金繰り負担は大きいといえます。
設備投資の必要性と資金確保の難しさ
歯科医院では、診療に必要な医療機器への投資コストが非常に高額です。レントゲン装置、歯科用CT、CAD/CAMシステムなどの高額医療機器は数百万円から数千万円するものも珍しくありません。
新規開業の場合はさらに多額の資金が必要で、テナント契約の敷金・礼金、内装工事費、医療機器の購入費などを合わせると、最低でも5,000万円程度かかるといわれています。こうした必要不可欠な設備投資が、多くの歯科医院にとって大きな資金負担となっています。
医院選びの基準の多様化
患者さんの歯科医院選びの基準も大きく多様化しています。先ほど述べたような高額な医療機器の導入はもちろんのこと、清潔感のある内装、オンライン予約システム、待ち時間の短縮、キッズスペースの充実など、総合的なサービス品質が選ばれる重要な要因となっています。
このような患者ニーズに応えるためには、基本的な診療設備に加え、治療環境の整備やデジタル化への投資など、継続的な追加投資が欠かせません。こうした投資が経営を圧迫する一方で、投資を怠れば患者離れを招くというジレンマに、多くの歯科医院が直面しています。
融資を受けるハードルの高さ
歯科医院の資金調達方法として、銀行融資は今でも重要な選択肢の一つです。しかし、融資審査では経営状況や返済能力の評価が行われ、場合によっては担保や保証人が必要となることもあります。
銀行融資は計画的な設備投資や長期的な資金計画に適している一方で、診療報酬の入金サイクルに合わせた短期的な資金需要や、迅速な資金調達が必要な場面では、別の選択肢も検討する価値があります。
歯科医院が診療報酬ファクタリングを利用するメリット
診療報酬ファクタリングは多くの点で歯科医院に有利な資金調達方法です。融資とは異なる特性を持ち、資金繰りの改善に大きく貢献します。
資金調達のスピードが早くて手軽
診療報酬ファクタリングは、申し込みから資金化まで数日程度で完了することが多く、急な資金需要にも対応できます。必要書類も比較的少なく、オンラインで申し込める会社が増えています。
ファクタリング会社によって多少違いはありますが、初回利用時には追加書類が必要になるものの、2回目以降は手続きが簡略化されることが一般的です。また、入金までのスピードや必要書類の数は会社ごとに異なるため、複数の会社の条件を比較検討することをおすすめします。
融資よりも審査に通りやすい
診療報酬ファクタリングの審査では、売掛先(社保・国保)の支払い能力が重視されます。社保・国保は支払い能力が極めて安定しているため、必要書類に不備がなければ高い確率で審査に通ります。
また、業歴の短い歯科医院でも利用しやすいのも特徴です。銀行融資では一定期間の実績が求められることが多いですが、診療報酬ファクタリングは原則として業歴を問いません。
手数料率が低い
診療報酬ファクタリングは一般的なファクタリングと比べて手数料率が低く設定されています。一般的なファクタリングの手数料率が10~30%程度なのに対し、診療報酬ファクタリングの手数料率は1~5%程度、場合によっては1%以下になることもあります。
この低い手数料率が実現できる主な理由は「売掛先の信用力の高さ」「3社間ファクタリングの採用」「継続的な利用が可能」という3点です。特に社保・国保という極めて信用力の高い公的機関が債務者であることが、低い手数料率を実現する最大の要因となっています。
実際、1,000万円の診療報酬債権を手数料率1%でファクタリングした場合、手数料は10万円程度で済みます。これは同額の銀行融資と比較しても経済的なケースが多いです。
負債にならず融資枠を消費しない
診療報酬ファクタリングは債権譲渡取引であり、貸借対照表上で負債として計上されません。資産の部の「売掛金」が減少し、「現金・預金」が増加するだけで、負債の部には変化がありません。
また、ファクタリングは融資ではないため、銀行の融資枠を消費することもありません。さらに、返済義務もないため、資金繰りの負担が軽減されます。
歯科医院がファクタリングを利用する際の流れと注意点
診療報酬ファクタリングを利用する際は、申込みから資金化までの流れを理解し、いくつかの注意点に気をつける必要があります。
申し込みから資金化までの流れ
まず、歯科医院での診療行為により診療報酬債権が発生します。当月の診療分は翌月10日頃までに社保・国保に請求し、審査に問題がなければ診療報酬債権が確定します。
この段階で、歯科医院はファクタリング会社に申し込みを行います。申込み後、必要書類を提出し、審査が行われます。審査通過後、契約を締結し、社保・国保に債権譲渡通知を送付します。
その後、ファクタリング会社から歯科医院に買取代金が振り込まれ、資金化が完了します。支払期日に社保・国保から診療報酬がファクタリング会社に直接支払われ、取引が完了します。
必要な書類と準備するもの
ファクタリング会社によって必要書類は若干異なりますが、基本的には「歯科診療報酬入金口座の通帳コピー」「社保・国保の支払額決定通知書」「決算書」「納税証明書」などが必要です。
初回利用時には、「保険医療機関指定通知書」「歯科医師免許証」「保険医登録表」「履歴事項全部証明書」「本人確認書類」なども必要になることがあります。申込みを円滑に進めるために、事前に利用予定のファクタリング会社に必要書類を確認しておくとよいでしょう。また、契約書の内容もしっかり確認することが重要です。
手数料と買取可能額の考え方
診療報酬ファクタリングでは「掛け目」という概念があります。掛け目とは、診療報酬債権の額面金額に対する買取比率のことで、通常85%前後に設定されます。
例えば、1,000万円の診療報酬債権を掛け目85%、手数料率1%でファクタリングする場合、買取対象となるのは850万円で、手数料8.5万円を差し引いた841.5万円が入金されます。残りの150万円は支払い完了後に返還されます。
契約期間と継続利用の注意点
診療報酬ファクタリングには、単発契約と継続契約があります。継続契約の場合、手数料率が低くなる傾向がありますが、いくつかの注意点もあります。
まず、契約期間中の解約に制限がある場合があります。「中途解約には3か月前の通知が必要」といった条件や、違約金が設定されているケースもあります。
また、毎月のファクタリング金額に最低限度額が設定されることもあり、診療報酬が減少した月でもこの条件を満たす必要があります。さらに、自動更新条項が含まれていることもあるため、契約内容をしっかり確認しましょう。
まとめ
診療報酬ファクタリングは、歯科医院の資金繰り改善に効果的な手段です。診療報酬債権を早期に現金化でき、審査通過率が高く、手数料も比較的安いというメリットがあります。ただし、掛け目や契約期間に関する制限などにも注意が必要です。自院の状況に合った利用方法を選び、計画的に活用することで、安定した経営基盤を築くことができるでしょう。
資金調達方法を検討する際は、顧問税理士や会計士など専門家への相談も重要です。特に診療報酬ファクタリングを初めて利用する場合は、契約内容の精査や経営全体における位置づけについて、財務の専門家からアドバイスを受けることをお勧めします。自院の経営状況を総合的に分析した上で、最適な資金調達手段を選択することが大切です。