歯科業界は医療DXでどう変わる?目指す未来とDX化で実現できること
近年、ビジネスの現場などで注目を集めるDX。あらゆる業界・業種がDXへの取り組みを進めていますが、医療業界においてもその期待は大きく高まっています。今回は医療業界におけるDXの現状や、医療DXによりどのようなことが実現できるのかをまとめました。
医療DXとは
DXとは「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略語で、さまざまなデジタル技術を活用することで人々の生活をより良いものへと変革することを指す概念です。もともとは当時、スウェーデンのウメオ大学で教授を務めていたエリック・ストルターマンが2004年に提唱した概念ですが、近年は政府がビジネスにおける優位性を確保するため企業のDX化を推進していることもあり、大きな注目を集めるワードとなりました。
DXが日本で注目を集めるようになったのは、2019年に経済産業省が発表した『「DX 推進指標」とそのガイダンス』の中で取り上げられたのがきっかけのひとつとされています。同資料の中では、DXについては以下のように定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
こうしたDXによる変革を、医療業界にももたらそうとする取り組みが「医療DX」です。医療業界は、特に事務手続きなどの点においてデジタル技術やIT技術の導入が遅れていると指摘されることもあり、最新のテクノロジーを活用することで業務プロセスや医療サービスを変革し、患者さんに新たな価値を提供したり、医療従事者の働く環境を改善したりする余地がまだまだ残されているといえます。
医療DXについては、厚生労働省が発表した資料「医療DXについて」の中で以下のように定義されています。
医療DXとは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること
【出典】医療DXについて | 厚生労働省
例えば、2023年1月から運用開始の電子処方箋は、医療DXのひとつの例といえます。オンライン資格確認の仕組みをベースに、処方箋を現状の紙ではなくデジタルデータで運用する電子処方箋は、クラウド上に構築した「電子処方箋管理サービス(支払基金・国保中央会)」を介して歯科医院や病院、薬局など医療機関の連携を可能にしてくれます。これにより、患者さんの服薬履歴の確認や、重複投薬・併用禁忌のチェックを効率的に行ったり、確認作業をより確実なものにしたりといったメリットが生まれます。
医療DXはただ最新のデジタルテクノロジーを導入するだけでなく、導入することで患者さんや医療従事者に、これまでにない新たな価値を提供する取り組みです。こうした価値のなかには、医療サービスの提供を効果的に、かつ効率的に行えるようになる仕組みも多く、多くの医療従事者から期待を寄せられています。
電子処方箋については以下の記事でも詳しく説明しています。ぜひ併せてご確認ください。
●関連コラム:歯科医院で何が変わる?運用を開始した電子処方箋とは
医療のDX化を実現するDX令和ビジョン2030の概要
政府は医療DXについて、どのような取り組みを進めているのでしょうか。その具体的な取り組み内容を示したのが、2022年5月に自由民主党政務調査会から提言がなされた「医療DX令和ビジョン2030」です。
「医療DX令和ビジョン2030」は医療のDX化や効率化のほか、近年の新型コロナウイルス感染症流行に対して開発されたシステムのような医療資源の適正な利用を目的とした提言です。その中で、こうした課題を解決するためには、以下の3つの取り組みを推進することが重要であるとしています。
全国医療情報プラットフォームの創設
「医療DX令和ビジョン2030」では、医療DXを実現する施策のひとつとして、オンライン資格確認のネットワークを拡充し、レセプト・特定健診情報、予防接種、電子処方箋、電子カルテなどの医療情報をクラウド間連携できるようにする「全国医療情報プラットフォーム」を創設することが提言されています。
これにより歯科医院、医科診療所などの医療機関だけでなく、自治体や介護事業者を含めたさまざまな事業者が、必要に応じて必要な情報を共有・交換することが可能になります。診療情報の共有という視点では、これまで歯科や医科、薬局などの連携が注目されがちでしたが、これに加えて訪問看護ステーション、介護保険事業者、福祉関係者、行政など関係各所との情報共有が可能になることで、地域医療の連携強化につながると期待されています。
電子カルテ情報の標準化
「電子カルテ情報の標準化」は、医療機関同士のスムーズな情報伝達を実現するため、医療情報を交換する際の国際標準規格(HL7 FHIR)を活用し、厚生労働省が交換データの項目や電子的な仕様などを規格化する取り組みです。
具体的にはまず、厚労省標準規格として診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書の3文書と、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報、処方情報の6情報を対象とし、以降は医療現場での有用性を考慮しつつ拡大することを目指しています。
診療報酬改定DX
現状、診療報酬が改定されると、文書で発表された改定内容をベンダー側が読み解き、エンジニアがプログラムに短期間で集中的に落とし込むといった作業が発生しています。「診療報酬改定DX」では、こうした大きな業務負荷がかかっている現状を改善するための提言もなされています。
具体的にはレセコンベンダーが共通で使える「共通算定モジュール」を導入し、診療報酬改定の際にはモジュールの更新を行うことでプログラムの更新が行えるようにすることが検討されています。
医療DXにより歯科で実現できること
医療DXが推進されることで、医療現場にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。一般的には「カルテをはじめとした書類の電子化による医療事務作業の効率化」「非対面診療の実現」「予防医療の実現」などがよく言われるメリットですが、特に歯科の医療現場では以下のようなメリットがもたらされると期待されています。
電子処方箋の情報を確認し、より安全な歯科医療を提供できる
患者さんが抗血栓薬、骨粗鬆症治療薬、ステロイド、糖尿病治療薬、神経系薬剤などの薬を服用しているかどうかは、抜歯のような小手術の判断をする際や歯科疾患との関連を疑ううえで極めて重要な情報となります。こうした情報をリアルタイムで閲覧できれば、より安全な歯科医療を行うことにつながります。
災害時に速やかな身元確認が可能に
電子カルテ情報の標準化により、診療録や口腔内情報がデジタル情報として共有されるようになります。これにより、災害時のように身元確認が必要な状況でもスムーズに情報共有が可能になります。
治療までの流れがスムーズに
医療DXの実現は、歯科診療所だけでなく、医科や薬局などさまざまな医療機関間での情報共有を実現します。医療機関の間でレントゲンやCT画像などが共有できれば、治療までの流れがスムーズになり、歯科医師の負担軽減にもつながります。
まとめ:医療DXは歯科医院の課題を解決する一手に
医療DXは決して未来の話でも、特別な話でもありません。すでに電子カルテを導入している歯科医院も多く、2023年1月からは電子処方箋が開始、また4月にはオンライン資格確認の導入義務化が控えています。
こうした医療DXへの取り組みは、人材不足や業務プロセスの改善など、さまざまな課題を解決する一手となるでしょう。歯科医院における業務効率化や医療サービス向上のため、ぜひ医療DXに取り組んでみてはいかがでしょうか。
医療DXの推進に役立つレセコンや電子カルテの記事も併せてご確認ください。
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