歯科医院のスタッフ採用方法について解説

歯科医院の経営において最も頭を悩ませる課題の一つが、スタッフの採用です。近年、採用市場の競争は一段と激しさを増し、従来の方法では思うような成果が得られにくい状況が続いています。さらに、働き方に対する価値観も大きく変化し、給与面だけでなく、働きやすさや将来性を重視する求職者が増えてきました。そうした中で、採用に成功している医院は、時代の変化に即した新しい採用手法を積極的に取り入れています。
この記事では、現場で実際に成果を上げている具体的な採用方法や、応募数を増やすためのポイントについてご紹介します。すぐに実践できる内容をできるだけ分かりやすく解説していきます。
歯科医院の採用市場が直面する課題
歯科医院の採用環境は、ここ数年で大きな転換期を迎えています。働き方改革の浸透により求職者の価値観が変化し、採用手法の多様化や採用コストの上昇など、新たな課題が浮上してきました。
人材不足の深刻化
少子高齢化の進行により、歯科医療の現場でも人材確保が深刻な課題となっています。特に歯科衛生士については、専門学校への入学者数が年々減少し、多くの学校で定員割れが発生しており、新卒採用市場の縮小が続いています。
各地の歯科医院から「募集をかけても応募が来ない」という声が聞かれており、その背景には構造的な人材不足があります。若年層の人口減少に加え、職業選択の多様化により、歯科医療分野を志望する若者の減少も課題となっています。このため、人材の確保・定着に向けた取り組みがこれまで以上に重要になってきています。
求職者が求める条件の変化
求職者の希望も、この数年で大きく変化してきました。以前は給与の高さを重視する傾向が強かったのですが、最近では働きやすさや休暇の取りやすさを重視する人が増えています。特に若い世代では、プライベートの時間を大切にしたいという意識が強く、残業の少なさや有給休暇の取得のしやすさを重視する傾向があります。また、コロナ禍を経て、職場の安全衛生体制や福利厚生の充実度を重視する傾向も顕著になってきました。
採用費用の増加傾向
求人市場の競争激化に伴い、歯科医院の採用にかかる費用は年々上昇を続けています。求人サイトへの掲載料は1回の募集で数十万円にのぼることも多く、複数のサイトに同時掲載が必要なケースも増えています。
採用費用は掲載料だけではありません。入職時の手当や引っ越し費用の補助、スキルに応じた昇給制度、研修費用など、人材を確保するための各種手当も重要な支出となります。また、経験者の採用では、前職の給与水準に合わせた報酬設定が求められるケースも多く、人件費の上昇につながっています。こうした採用コストの増加は、特に小規模医院の経営を圧迫する要因となっており、費用対効果を考慮した採用戦略の立案が重要になっています。
どんな医院に人が集まるのか
採用に成功している医院には、いくつかの共通点が見られます。給与や休暇といった基本的な条件に加えて、働く環境の質にまで気を配っている医院に、応募が集中する傾向があります。
重視される働きやすさ
現在の求職者が重視するポイントの一つが「働きやすい環境」です。具体的には、診療時間内で仕事が終わる仕組みや、休憩時間が確実に取れる体制、急な休みにも対応できるスタッフ体制などが重要となっています。特に歯科衛生士や歯科助手は女性が多い職種のため、育児や家庭との両立がしやすい環境を整えている医院は、応募者から高い関心を集めています。また、患者の予約枠にゆとりを持たせ、スタッフが焦らずに仕事ができる環境も、大きな魅力の一つとなっています。
給与や休みの基準
給与については、業界水準を意識した設定に加え、昇給の仕組みが明確であることが重要です。歯科衛生士の場合、経験年数や保有資格に応じた給与テーブルを設定し、将来の収入が予測できる環境を整えている医院が選ばれています。休暇については、週休2日制の導入や祝日の休診、夏季・年末年始の長期休暇の設定など、計画的に休みが取れる環境が求められています。また、有給休暇の取得率の高さも、応募を検討する際の重要な判断材料となっています。
医院の雰囲気と人間関係
職場の雰囲気や人間関係の良さは、応募者の関心が特に高い要素です。院長とスタッフのコミュニケーションが活発で、意見が言いやすい環境が整っているかどうかは、面接時の重要なチェックポイントとなっています。定期的なスタッフミーティングの実施や、院内での勉強会の開催など、チームワークを高める取り組みを行っている医院は、特に若い世代からの支持が高くなっています。医院の公式SNSなどで、スタッフの生き生きとした表情や、チームでの取り組みの様子を発信している医院にも、応募が集まる傾向が見られます。
キャリアアップの機会
将来のキャリアプランが描ける環境は、多くの求職者から高い関心を集めています。職種別に見ると、以下のようなキャリアアップの機会が重視されています。歯科衛生士の場合、予防歯科や口腔ケアなどの専門分野のスキルアップ、最新の治療技術の習得、認定歯科衛生士の資格取得支援などが魅力的なポイントとなっています。また、経験を積んでチーフ歯科衛生士として後輩の指導や教育に関わるキャリアパスも注目されています。
歯科助手については、受付業務やカウンセリング業務など、職域を広げられる環境づくりが重要です。また、医院の運営事務や保険請求業務など、専門性を高められるキャリアパスの提供も求められています。受付スタッフの場合、採用担当やマネージャーとしてのキャリアアップなど、医院運営により深く関わることのできる成長機会が求められています。特に注目されているのが、これらのキャリアパスを明確に示している医院です。例えば「入職2年目で主任候補」「3年目でチーフ」といった具体的な道筋や、それに伴う給与体系を明示することで、求職者が自身の将来像を描きやすくなります。
応募が来る求人の作り方
良質な人材を確保するには、医院の魅力を効果的に伝える求人原稿作りが大切です。応募が集まる求人には、いくつかの特徴があります。ここでは、実際に成果を上げている求人の特徴と、効果的な原稿の作り方について見ていきます。
人が集まる求人表現
求人原稿では、まず求職者の目を引く見出しづくりが重要です。「年間休日120日以上」「残業月平均2時間以下」など、具体的な数字を用いた表現は、医院の働きやすさを端的に伝えることができます。本文では、実際のスタッフの声を引用したり、1日のスケジュールを具体的に示したりすることで、より現実的な仕事のイメージを伝えることができます。「産休・育休からの復帰実績3名」「有給休暇取得率80%」といった、医院の制度や取り組みを数値で示す方法も効果的でしょう。
求人サイトの選び方
医療専門の求人サイトから一般の求人サイトまで、それぞれの特徴を理解し、目的に合わせて使い分けることが重要です。例えば、経験者を採用したい場合は医療専門の求人サイトが効果的です。これらのサイトには、転職を考えている歯科衛生士や歯科助手が多く集まっているためです。
一方、未経験者を募集する場合は総合求人サイトが適しています。また、地域密着型の採用を目指す場合は、地元の求人情報誌やローカルサイトの活用も検討する価値があります。各プラットフォームの特徴を理解し、採用ターゲットに合わせて適切に選択することで、より効果的な採用活動が実現できます。
予算に合わせた掲載
採用予算を効果的に使うためには、戦略的な掲載計画が欠かせません。例えば、歯科衛生士の採用市場が動く3月や4月に重点的に予算を配分したり、複数の媒体を組み合わせて相乗効果を狙ったりするなどの工夫が必要です。掲載期間については、短期集中型と長期継続型を使い分けることが重要です。短期集中型は初期費用を抑えられ、特定の時期に絞って募集できます。
一方、長期継続型は継続的な応募が期待でき、医院の認知度向上にもつながります。特に年末年始や夏季休暇前など、転職を考えやすい時期に掲載すると、応募が増える傾向にあります。
効果的な文章のコツ
求人原稿の文章は、読みやすさと情報量のバランスが重要です。見出しやリード文では、医院の特徴や募集のポイントを簡潔に伝え、本文で詳しい説明を展開していく構成が効果的です。特に重要な情報は、太字や枠囲みなどを使って視覚的に強調することで、求職者の目に留まりやすくなります。具体的な数字やデータを盛り込むことで、医院の実態がより明確に伝わります。院内の様子が分かる写真を効果的に使用すれば、職場の雰囲気をより具体的にイメージしてもらうこともできます。
求人以外で応募を増やす方法
求人サイトでの募集だけでなく、多角的なアプローチで採用力を高めている医院が増えています。特に効果を上げているのが、自院の魅力を継続的に発信し、求職者の関心を集める取り組みです。
医院のホームページ活用
自院のホームページに採用専用のページを設けることで、求人サイトでは伝えきれない詳しい情報を発信できます。実際に活躍しているスタッフの声や、キャリアアップの事例、院内の雰囲気が伝わる写真など、医院の魅力を多角的に紹介することが可能です。
採用ページでは、新卒・経験者向けにそれぞれ異なる切り口で情報を提供したり、実際の1日の流れを時間軸で紹介したりするなど、具体的なイメージを持ってもらうことが重要です。また、スマートフォンでの閲覧に配慮したデザインにすることで、より多くの求職者にアプローチできます。
SNSでの情報発信
InstagramやFacebookなどのSNSを活用した情報発信は、医院の日常や雰囲気を伝える効果的な手段です。院内での勉強会の様子や、スタッフの交流イベント、患者さんへの対応風景など、リアルな職場の雰囲気を発信することで、求職者の興味を引くことができます。
スタッフ一人一人にスポットを当てた投稿や、チームでの取り組みの紹介など、人に焦点を当てた情報発信も効果的です。定期的な更新により、医院の活気や成長性を継続的にアピールすることができます。
職場見学・体験の活用
オンラインでは伝えきれない医院の魅力を直接感じてもらえる職場見学は、採用成功率を高める重要な施策です。実際の診療環境や設備の見学に加え、現役スタッフとの対話の機会を設けることで、より具体的な就職イメージを持ってもらえます。 見学では、実際の診療の様子や、スタッフ同士のコミュニケーション、休憩室の雰囲気など、普段の様子をありのままに見てもらうことが重要です。また、個別の質問時間を設けることで、求職者一人一人の不安や疑問に丁寧に対応することができます。
紹介制度の設計
既存スタッフからの紹介による採用は、様々な面で効果的な手法です。紹介者が応募者の人柄や技術力を事前に把握していることで、医院の方針や文化に馴染みやすい人材を見出せる可能性が高くなります。また、紹介者が職場の特徴を詳しく説明できるため、応募者も入職後のミスマッチが少なく、結果として定着率の向上にもつながります。
制度を成功させるコツは、紹介する側とされる側の両方にメリットを設けることです。たとえば紹介者への報奨金を、入職時だけでなく3ヶ月後や6ヶ月後にも用意することで、継続的な勤務を促すことができます。もちろん、スタッフが「この職場なら安心して友人を紹介できる」と思える職場づくりも大切です。
まとめ
歯科医院の採用活動は、求人市場の変化とともに、より戦略的なアプローチが求められています。成功の鍵は、求職者のニーズを的確に把握し、医院の魅力を効果的に発信することにあります。単なる求人掲載だけでなく、自院のホームページやSNSを活用した情報発信、見学会の実施、紹介制度の活用など、多角的なアプローチを組み合わせることで、より効果的な採用活動が実現できます。
特に重要なのは、採用活動を一時的なものではなく、継続的な取り組みとして位置づけることです。医院の魅力を高め、それを効果的に発信し続けることで、求職者からの信頼と関心を集め、質の高い人材の確保につながっていきます。時代の変化に柔軟に対応しながら、自院に合った採用戦略を構築し、実践していくことが、これからの採用成功の重要な要素となるでしょう。
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